基調講演2 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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基調講演2

「日本の『ゲイ』とHIV/AIDS」

大阪市立大学大学院 創造都市研究科 准教授 新ケ江 章友 氏

新ケ江章友:1975 年生。筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(学術)。カリフォルニア大学バークレー校人類学部客員研究員、財団法人エイズ予防財団リサーチ・レジデント、名古屋市立大学男女共同参画推進センター特任助教などを経て、現在、大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授。代表的な著作として、『日本の「ゲイ」とエイズーコミュニティ・国家・アイデンティティ』(2013 年、青弓社)。

はじめに

 皆さん、こんにちは。大阪市立大学の新ヶ江と申します。私が今日お話ししたいテーマは、「日本における『ゲイ』とHIV/AIDS」です。

 私の専門は医療人類学です(スライド1)。文化人類学は、簡単に言えば、いわゆる文化研究です。私たちが育ってきた文化とは異なる文化、つまり異文化を研究するというのが文化人類学という学問です。その中で、私が特にテーマにしているのが医療の問題で、HIVのことをずっと研究してきました。
 先ほど稲場さんからもいろいろお話があって、私が知らないこともたくさんお伺いしたのですが、私がこれまで研究してきたテーマは、日本におけるエイズ問題についての研究です。具体的には、国家によるエイズ予防プログラムの作成過程に、日本のゲイ男性自身がどのように関わってきたのかということについて研究をしてきました。簡単に言ってしまうと、国家とゲイ男性の関係について研究してきたわけです。私はこれまで20年近くHIVのことについて研究をしてきました。スライド1にあるような本も作成して、HIVの活動に携わっている人たちと関わりながら調査をしてきたわけなのですが、私自身も実は気づいていなかったことがあります。

スライド1

 ここ数年の政治的な動きの中で、特に2015年からLGBTのことが非常にメディアの中でも騒がれるようになってきました(スライド2)。安倍政権の政治動向や、最近では憲法改正の議論がされています。アメリカ合衆国ではトランプ政権が誕生し、2020年には東京オリンピックがあるということで、世界的な政治動向が今大きく変わっているわけですが、その中で特に2015年からLGBTのことについてメディアでもいろいろ取り上げられるようになってきています。
 これら一連の政治的な動きがLGBTの社会的承認とどう関係しているのかというと、私は本を書いて国家とLGBTの関係、特にゲイ男性との関係について研究をしてきたわけですが、ここ数年の政治的な動きを見ていると、私の研究していたことは、こういう政治的な動きと非常に連関していたのではないかということに気づくことになりました。本を書いた時は、これがどう関係しているのか、実は自分の中でも分かっていない部分があったのですが、ここ最近の政治的な動きの中に、1980年代以降のエイズ問題を位置付けると、このエイズ問題を通して、今何が起ころうとしているのか、新たに今の状況を振り返ってみることができるのではないかと私自身は考えているところです。

スライド2

 今日のお題は「日本における『ゲイ』とHIV/AIDS」ということですので、こちらがもちろんメインのお話になるわけですが、それに併せて、この問題が近年のLGBTを取り巻く状況とどう繋がっていくのかということもお話ししたいと思います。最後に考えなければいけないのが、先ほど稲場さんからも話が出た人権の問題です。人権の問題も国家との関係で考えるべき問題で、このことについては憲法改正の問題と絡めながらお話をしたいと思います(スライド3)。

スライド3

 

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