医師と患者のライフストーリー
輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究 最終報告書
輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究委員会 編
我が国に起きた「血液製剤によるHIV感染問題」とは、何だったのでしょうか?
HIV感染症の有効な治療法がなかった当時、医師たちは各々の現場で血友病の治療と未知の病に対峙し、迷い、試行錯誤を繰り返していました。彼らの行為は時には医療機関から疎まれ、時には患者達から強い非難を浴びたこともありました。
患者や家族はHIVに対する強い偏見の中で壮絶な闘病や死別という現実に翻弄され、立ち尽くし、あるいは立ち向かって行ったのです。多くの人生が予想もしなかった出来事によって変わっていったと思います。HIV感染問題とは、いってみれば、これらの人々の人生の総和であるともいえるのではないでしょうか。
本書は、養老孟司氏を委員長とした「輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究委員会」としての最終的な調査報告書であり、約7年間に及んだ調査研究の集大成です。
本書は下記の通り3分冊から構成されています。
第1分冊 論考編 社会学研究者らの論考、養老孟司氏×村上陽一郎氏の対談など
第2分冊 資料編 医師の語り:血友病医ら13名のべ30回分のインタビュー逐語録
第3分冊 資料編 患者・家族の語り:血友病患者・家族18名のべ38回分のインタビュー逐語録
彼らの語りから非常に多様な現実が浮かび上がってきます。貴重な歴史的証言を集めた「サーガ」といって過言ではないでしょう。「医療の不確実性」に対して、提供する側・受ける側が、どう考え・どのように対処したらよいか、各自の判断や行動に関して非常に示唆に富んでいます。
最後に、本書の発刊を待たずに他界した医師や患者のみなさんに、心から哀悼の意を表したいと思います。みなさんについての記録や記憶が、命あるものによって幸福をもたらす「遺伝子」としてひきつがれてゆくことを願ってやみません。
養老孟司委員長に倣って言えば、遺伝子系ではなく、中枢神経系の豊かな伝言ゲームのひろがりとして。
以下、本書(第2分冊、第3分冊)より。
- いかにベストを尽くしたかどうかっていうことを議論すべき
- 薬害エイズは私の医療やいろいろなことの転換であったのは確かなんでね
- 現役をやめたときにはわかりませんね。薬害のことで悩むかもしれないし
- 自分の弱みを聞いていただいた、それに尽きますね。
- 加熱が絶対に良い、副作用もおこらないとは誰も思わなかった
- 大いに騒いで、お互いに議論し合って、それからその先の方向を決めていくというような習慣はつけたほうがいい
- ああ、なんでどうして、もう少しなんとかできなかったかなと思ってね、うん
- 逆に信頼関係ができているために(検査結果を)言えなかった
- (感染)させられたなんて思わない。血液に生かされてきたんだから。
- 告知って大切だと思うんですよ。人生観変わるから
- 自分を傷つけるものが社会的な構造であるなら、それを捨て置くことは気づいた者の責任を全うしてない。
☆「輸入血液製剤によるHIV感染問題研究 最終報告書」発行のお知らせ
(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 理事長 若生 治友、MERSニュースレターNo.20より)