フォーラム取材報告 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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フォーラム取材報告

「第12回 薬害根絶フォーラム」

森戸 克則 大阪HIV薬害訴訟原告団 理事

イントロダクション

 12回目の薬害根絶フォーラム、これまでは東京と関西にて交互に開催されてきましたが、今回は初めて北海道の札幌で開催されることとなりました。下記のように原点に立ち返ったテーマで行われました。

第12回 薬害根絶フォーラム
薬害被害の教訓は生かされているか?-今、北の大地から薬害を問う-
≪開催概要≫
日時:
 2010年10月16日(土) 13:30~17:30
会場:
 北海道大学学術交流会館 講堂
参加者:
 280名
主催:
 全国薬害被害者団体連絡協議会(以下、薬被連)
共催:
 (社)北海道薬剤師協会、北海道病院薬剤師会、北海道薬科大学
後援:
 (社)日本薬剤師会、(社)日本病院薬剤師会、日本社会薬学会北海道支部、薬害オンブズパーソン会議、薬害オンブズパーソン・タイアップ北海道、国民医療研究所、(財)北海道難病連
協賛:
 (独)医薬品医療機器総合機構
≪プログラム≫
<第1部> 薬害被害者(9薬害)からの報告 【特集】イレッサ
<第2部> 徹底討論 薬害根絶と教育 ~薬害被害の教訓は生かされているのか?~

本フォーラムのチラシは こちら

フォーラム概要

第1部 実態報告

 薬害被害者(9薬害)からの実態報告があり(各8分間)、発表順にサリドマイド・HIV・ヤコブ病・スモン・MMR・筋短縮症・陣痛促進剤・肝炎の発表があり、続いて今回の「特集」イレッサについて近澤氏から20分間にわたり被害報告が行われました。

第2部 徹底討論「薬害被害の教訓は生かされているか?」

 以下の5名による討論のち、参加者からの質疑応答を行い、最後にまとめを行った。

<サリドマイド:佐藤氏>
 科学的データーに基づいた情報は残念ながら行政サイドから出てこない。2008年10月、安全管理の徹底を条件にサリドマイドは骨髄腫治療として再承認された。国内では過去のサリドマイド被害から管理が徹底されているものの、他の疾患において適応外事例で海外から個人輸入されている現状があり、新たな被害の発生が懸念されている。サリドマイドがもつ危険性(催奇形性)について医療者だけではなく広く国民に知ってもらうことが大切と訴えた。

<スモン:中西氏>
 1979年に薬事2法が改正されたものの生かされていないのは痛恨の極みであり、国が回収命令を出すことが可能になったにも関わらず、これまでに1度も回収命令が出されたことがない。この事実をもってしても過去の薬害被害が生かされていないといえる。行政文書の中で「薬害スモン」という文言が使われるまでに31年も掛かっていることも極めて遺憾、患者の立場ではなく製薬会社側に立っていると言わざるを得ない。子どもたちには将来、薬害の被害者にも加害者にもなって欲しくないと考えている。そのために教育は重要で、文部科学省交渉の意義を訴えた。

<肝炎:武田氏>
 提訴された方のほとんどはフィブリノゲン製剤を投与された事実を知らされていない。情報公開が極めて重要。なお、行政側から「薬害」という言葉を使ったのは薬害C型肝炎訴訟が最初。

<陣痛促進剤:勝村氏>
 そもそも行政は患者に情報を与えていない。これまでにあった薬害を教育現場で学生に教えていない。その後、医療者になってからも薬害被害を受けた患者のことを知らない。「知らない」ということに薬害が繰り返して起きる土壌があるのでは。高等教育、特に医学教育の中で、実際に被害に遭われた方々から生の話を聞くことは重要ではないか。総じて教育は重要で子供たちに伝えていくことが肝要、文部科学省交渉の重要性を訴えた。

<HIV:花井(司会)>
 「薬害」という文言、厚生労働省はこれまでなかなか使いたがらなかった。最初の文部科学省との交渉時「薬物乱用」の会と誤認して失態をかった文部科学省であったが、毎年交渉を積み重ねていき、厚生労働省よりも先に「薬害」という文言を使い出した。

<質疑応答>
 フロアから、薬被連のこれまで活動を評価する意見が多かったものの、これまでの約10年間の活動をとおしての具体的評価について質問があり、勝村氏から教育、特に教科書への掲載をとったことが大きい、具体的には文部科学省との交渉において初等教育の学習指導要領解説書に薬害という文言が掲載されたこと、加えて医学教育モデルコアカリキュラムの改訂に関する検討会が開かれ、その場で薬害被害者から直接意見が言えることになったこと、文部科学省の協力を得て医学教育の場で薬害被害者が学生の前で講義できるようになったことなどを成果として上げた。厚生労働省関係では、レセプト並の診療報酬明細書が無料で発行されるようになったことを上げた。治療に使われた薬剤や検査等の明細が全て細かく記載されている。患者は病院で使われた薬剤の名前を知ることができるだけではなく、医療費の内訳も分かるようになったことが大きな成果である。

<まとめ>
 最後にまとめとして司会の花井から、この10年間で、行政・医療・製薬メーカーの、いわゆる専門家の間の中で「薬害」という言葉が認知されてきたが、教訓として薬害から学ぶということはこれからの課題であるのではないかとまとめた。ともあれ、その前提となる情報公開は薬害でだけではなく、各分野で今後しっかり進めていかなければならないと締めくくった。

おわりに

 初開催となる札幌、当初は参加者数が少ないのではないかと懸念されていたものの、過去12回開催されたフォーラムで2番目に多い280名もの参加者を得られ、盛会であったといえる。3万6千枚のチラシ配布や会場手配等の準備を行った、地元ヤコブ病サポートネットワーク北海道の浅川氏および地元の薬害エイズ被害者の井上氏、お二人の尽力に感謝申し上げたい。