巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言

 1 ヶ月以上前になるが、古い友人と「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」とも呼ばれる野生のカタクリの群生地を訪れた。雪解け後の雑木林の一画に10cm ばかりの花茎を伸ばし、薄紫の花を咲かせていた。見ごろの時期より1 週間ほど早かったため、あたり一面に咲いているわけではなく、日当たりの良い傾斜地で花を咲かせていた。

 カタクリは、わずか2 週間程度の開花期間を含め、地上に姿を現すのは1 ヶ月程度だそうで、残りの大半は地下で休眠状態となるらしい。カタクリは非常に繊細な植物で、生育環境が少しでも変動すると開花せず、枯れてしまうらしい。まさに「スプリング・エフェメラル(直訳すると、春のはかないもの)」であり、日本の他エリアの群生地では、カタクリはレッドデータ・リストに挙げられている。

 故郷にこれほどの群生地が存在していることを今まで全く知らなかった。駐車場は舗装されておらず、また散策路はぬかるみ、ほぼ自然のままの状態であった。観光地というには程遠く、全く俗化されていないことが、逆に豊かな群生地を残していたに違いない。もちろん地元の人々の努力は相当大変だと思う。

 1‐2 年前からだろうか、げんなりするニュース報道(文書の改ざん、情報の隠蔽、責任の転嫁、フェイク、政治への不信感、…)に辟易・消耗し、さらには「春先の憂鬱」というか、個人的に気分が晴れない時期とも相まっていたのだが、ほんのひととき「春の妖精」を観察し散策することで心穏やかになることができた。決して派手ではなく、可憐に花を咲かすカタクリは、限られた環境にしっかりと根ざして一所懸命に花を咲かせ生きている姿には、心が洗われる思いになった。久しぶりに、充実した時間を過ごせた1 日であった。


2018 年7 月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友