巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

Newsletter
ニュースレター

巻頭言


昔からホラー系の映画や小説では、ウイルスや細菌、「謎の生命体」などが宿主である人間を乗っ取ったり、ゾンビ化させたりと、色々なストーリーが展開され、ハラハラ・ドキドキさせられている。

最近、読んだ本は、ある意味衝撃的であった。昆虫や小動物に寄生する生物(ウイルス、細菌、原虫等)は、「彼ら」にとってメリットとなる、例えば「繁殖(増殖)」できるように宿主の行動や感覚をコントロールしているという。その本では、神経寄生生物学の研究者らの成果を紹介しており、人間の思考・感情・性格・行動さえも、寄生生物が関与しているらしい。例えば、鬱の人の場合、ある特定の腸内細菌の数が異様に多く、気分や元気に影響を与えているとのこと。

これらの根拠や仮説が成立するのであれば、ますます自分というものが分からなくなってしまう。いわゆる「自分探し」など無意味だといえるし、極端なことをいえば、社交的とか、口ベタとか、その人らしさを表しているのは、寄生生物なのかもしれない。そもそも私は「自分」というものは存在せず、周囲が評価・判断すると考えているから、「自分探し」はしないのであるが…

ひとりの人間に住みつく寄生生物の数をコンピュータで計算すると100兆個を超えるそうで、人間を形成する細胞の数(数十兆個、諸説あり)を遥かに超えるとのこと。地球上には70億の人間がいて一人一人多様であると考えていたが、寄生生物によって影響を受けることで、もはや無限の多様性があると思う。「世の中、何でもあり」と思うようになっていたが、無限の多様性を認めた上で、どのように向き合い、折り合いをつけるかが大切なのだと思う。「普通」とか「あたりまえ」ということ自体、意味をなさないのだろう。


「心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで」
2017年4月25日 第1刷発行
著者:キャスリン・マコーリフ
発行:株式会社インターシフト

 

2017年6月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友