巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


早いもので関西にやってきて20年目、生まれ故郷を離れてからは、もうすぐ30年になろうとしている。最近は父親の老いを痛感するようになってきた。研究職という父の仕事柄か、生まれて間もない私が血友病と診断されても「人より少し足りない凝固因子を補充すれば良い」という、割と父は理屈として病気や治療を捉えていたと思う。

そのせいか、私も凝固因子製剤を注射することを仕方がないと感じていた。それでも子どもの頃は、出血のコントロールをうまくできず、内出血の痛みや生活上の不具合に対して、やり場のない怒り・悔しさ・孤独感を覚えたものであった。加えて自己注射が承認されて間もない頃は、理屈で分かっていても「自分の身体に針を刺す」ことに抵抗感を持っていた。

やがて年齢を重ねるにつれ、いつのまにか凝固因子の少ないこの身体は「果たして病なのか」とまで思えるようになってきた。何かと痛み・つらさ、面倒くささを感じ、病としてのマイナス面は多い。けれど逆の見方をすれば、貴重な経験をしたり、新たな出会いによって世界が広がったり、プラスな部分もあるのではないだろうか。

そういう意味で、自分の「病」とどのように付き合っていくか、ようやく折り合いがつけられるようになったのだと思う。しかしながら、このような思いに至れるのは、今のように治療製剤の安全性や供給が確保され、医療体制・保険制度が維持継続されていることが大前提である。これまでの経験を踏まえ、将来(次世代)に繋がることを考え実施していきたい。

 

2010年7月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友