巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


最近、物忘れが激しい。家を出るときに、ついつい携帯電話を忘れ、戸締まりしたか、電源入れっぱなしはなかったか、気になって仕方ない。いきつけの、まるで仙人のようなマスターがいうには、一言「年のせい」だそうである。

気がつけば「後厄」も終わりに近づいている。今まで出来ていたことが少しずつ減っていくのは大変悔しく哀しい。その一方で経験を積み重ねることで、以前に比べれば多少は思慮するようにはなったと思う。どちらの自分が「善い」のだろうか、年を取りたくないと考えるのはどういうことなのか。

「人間に平等なものとは何か?」、最近読んだ本によれば「死ぬこと」だそうである。さらに著者曰く「そこにあるのは自分(一人称)以外の死があるだけ」、誰も自分の体験として理解できないからこそ恐れるのであると。目からウロコなのである。確かに誰にでも死は訪れる。理解できないものに対して畏怖の念を抱くのは尤もなことである。

私が最も心打たれたのは、「『いかに死ぬか』と考えることは、『いかに生きるか』に等しい。」という逆説的表現であった。翻って、いかに生きるかと自分に問い、考え続けていきたいと感じた。私と同じように共感できる人が少しでも増えれば、もしかしたら今の無力感はびこる「世間」から抜け出し、多くの人たちが楽しく幸せと感じられるようになると思った次第である。

件の著者は、今はもういない。

”文筆家” 池田晶子氏、享年46。
『死と生きる 獄中哲学対話』(共著/新潮社、1999年)、『ロゴスに訊け』(角川書店、2002年)、『14歳からの哲学-考えるための教科書』(トランスビュー、2003年)、『知ることより考えること』など。

 

2008年12月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友