特集 薬害肝炎訴訟東京判決の意味するもの ~この国の肝炎対策のゆくえ~ | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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特集 薬害肝炎訴訟東京判決の意味するもの ~この国の肝炎対策のゆくえ~

緊急速報「6.25もう待てない!!総理決断要求行動」取材報告

    特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 清瀬 孝介

イントロダクション

 被告国、被告企業に3度目の断罪がなされた薬害肝炎訴訟東京判決、そして判決直後に行われた3日間にも及ぶ座り込み行動の結果、安倍首相より「政府と与党が一体となって、薬害肝炎問題の解決に取り組む」との約束を取り付けてから3ヵ月が経過しました。厳しい戦いの中に一筋の光が差し込んだかに見えた薬害肝炎訴訟ですが、その後の政府、与党からは具体的な解決策は示されず、その問題を先延ばしにする対応は原告側の期待を大きく裏切るものでした。そうこうしている間にも病は原告たちの体をどんどん蝕んでいきます。「もう時間がない!もう待てない!」その思いから、2007年6月25日、全国の原告、弁護団、支援者たちが集結し、直接安倍首相に決断を求めるために首相官邸に赴きました。題して「6.25もう待てない!!総理決断要求行動」。私も参加、取材をしてきましたので報告します。

悪天候の中・・・

「官邸前の道路で、どしゃ降りであろうが、ダイイン(注1)する覚悟です。頑張りましょう!」

とは、薬害肝炎大阪訴訟原告・桑田智子氏の今回の行動をするにあたってのコメントですが、当日はそんな原告たちの覚悟を天が試そうとしているかのようなどんよりとした天気で、時折小雨が降る中での行動になりました。

 午後1時前、集合場所である日比谷公園「かもめの広場」に到着すると、もうすでに広場内は全国から駆けつけた原告、弁護団、支援者でごった返していました。しかし、私が事前に聞いていた目標の参加人数にはざっと見渡しても到達しているとは思えず、少し残念に思いましたが、それでも300人から400人は集まっているようでした。首相官邸前への移動は当初徒歩が予定されていましたが、どうやら急に原告団と政府の交渉が決まったらしく、地下鉄での移動に変更になりました。大人数での地下鉄の利用に少し不安を覚えましたが、弁護団の方々の先導により非常にスムーズに移動できました。

日比谷公園「かもめの広場」

大勢の支援者でごった返す首相官邸前の道路


(注1)通常、反戦活動など、不当な死に対する抗議行動に用いられるデモ行動の一種で、署名やシュプレヒコールはせず、ただその場に横たわり続けるというもの。いわゆる「死んだふり」で、不動で地面に伏せることにより戦死者の遺体を表現している。

交渉団、官邸内へ


交渉前の会見の様子

 首相官邸前に到着すると、午後1時45分より首相官邸内で原告団・弁護団と政府との間で交渉が行われるとの情報が耳に入りました。さらに、すでに午後1時15分より自民党本部にて原告団・弁護団の代表6名が自民党・中川昭一政調会長と面談を行ったとの情報も入りました。中川氏からは「党のプロジェクトチームに薬害肝炎問題をしっかりと取り組ませる」との力強い言葉をもらい、さらに席上、中川氏自ら塩崎恭久官房長官に電話をかけ「党としてしっかり取り組むので、政府もしっかりやってほしい」と伝える一幕もあり、10分ほどの短い面談でしたが、実り多いものになったようです。午後1時45分からの政府との交渉に臨むのは、山口美智子・全国原告団代表と鈴木利廣・全国弁護団代表の2人。首相官邸内で塩崎恭久官房長官と面談をするとのことでした。

 交渉団が官邸内に入ってからは、支援に駆けつけた様々な方々の挨拶がありました。「今日で完全解決になると確信している」とは前述の桑田氏。浅倉美津子・薬害肝炎東京訴訟原告は「いい方向に進むと信じている」と述べました。阿部知子・社民党衆議院議員は「今の政治は命知らず。人の命が関わっていることでさえ政党パフォーマンスとして利用している」と述べ、また仙石由人・民主党衆議院議員は「裁判によらず直ちに和解に入るべき。これは政治家ならずとも真剣に考えなければならない問題だ」と述べました。さらに参議院選挙への出馬を表明している薬害エイズ訴訟原告であった川田龍平氏も応援に駆けつけ、「この問題も薬害エイズと同じ構造だ。このようなことが繰り返される社会の仕組みを変えたいと思い参議院選に立候補した。いつまで生きられるのか分からない身体でやれることをやる」と強い決意を述べました。さらに、学生の支援の会から原告の方々へ手作りのメッセージ入りTシャツのプレゼントなどもありました。

学生の支援の会から原告へ メッセージ入りTシャツのプレゼント

無念・・・涙の報告

厳しい表情で官邸から戻る鈴木、山口両氏

涙ながらに交渉内容の報告をする山口氏

報告集会の様子

 午後2時35分、政府との交渉に臨んでいた山口、鈴木両氏が官邸から戻ってきました。おふたりの厳しい表情から、これは良い報告ではないことが推察されます。まずは鈴木氏が交渉の詳しい内容を報告しました。やはり塩崎官房長官からの返事は「政府を信じて待ってほしい」というだけの、これまでと変わらない中身のないものでした。続いて山口氏は涙を流しながら「このような結果で、みなさんとどんな顔をして会えばいいのか分からない。本当にごめんなさい。何度も『何かひとつでも具体的な政策を言ってください』と迫ったが『自民党としても政府としても必ず取り組んでいく』という言葉だけだった。しかし私はもう一度だけ政府を信じようと思う。みなさんも政府を信じましょう」と述べました。

 その後、再び日比谷公園「かもめの広場」に戻り、報告集会が開かれました。東京、大阪、福岡だけでなく、長野、愛媛、滋賀、熊本、京都、千葉など様々な地域の支援者のお話を伺いながら、確実に支援の輪が広がっていることを感じました。   

 おわりに

人々の思いは国に届くか

 私はこのような大規模な抗議行動に参加させていただくのは今回が初めてでした。首相官邸前というのは警備の非常に厳重な所だと聞いていたので、いったいどんなことが巻き起こるのだろうと内心ビクビクしながらの参加でしたが、関係者の方々の尽力により私の知るところでは大きなトラブルもなくスムースに行われました。しかしその反面、「抗議」行動にしては少しおとなしすぎるのではないかと思いました。やはり政府の思うツボにハマったというか、政府の掌の上で転がされているような印象は拭えません。原告や弁護団の方々だけではなく我々支援者も、今回の山口氏の流した涙の意味というものをもう一度深く考え直してみる必要があるように思います。

 残念ながら今回は安倍首相の決断を得ることはできませんでしたが、官邸前に集まった約400人もの人々の列は政府・与党に大きなインパクトを与え、早期解決のためのプレッシャーになったことは間違いありません。みなさんも今後の政府・与党の動きを注視していただきたいと思います。