≪筆者≫ 大阪HIV訴訟弁護団 弁護士 山西 美明
いよいよMERSが旗揚げをし、荒波へ出航していく。
私は、薬害エイズ訴訟、特に、和解後は、遺族の問題にかかわってきた弁護士の1人として、MERSに対し、次の3点について期待したい。
①遺族の相談事業に対して専門家としての立場からの的確なアドバイスと支援をお願いしたい。
相談事業は、遺族弔意事業の一環として始まった。心を癒される場のない多くの遺族の人々は、和解後も、亡くした最愛の人のことを存分に語ることもできずに、ひっそりと暮らしている。何とか、こうした遺族の人々の心のケアーのために、原告団が、国から委託を受けてこの相談事業を実施することになった。いわゆる「ピアーカウンセリング」(遺族による遺族のためのカウンセリング)である。3年間の地道な努力が、少しずつ遺族の人々の心を開いてきた。しかし、素人である遺族の相談員だけで、この事業を運営していくのでは、限界がある。この相談事業をより実り多い事業とするために、専門家としての視点と実践をMERSに期待するのである。
②「薬害根絶誓いの碑」を拠点として絶えず薬事行政を国民が監視するシステムを構築して欲しい。
遺族の何よりもの願いは、「二度と薬害を繰り返さないで欲しい」ということであった。そうした思いから、国に対し、薬害根絶を誓った碑の建立を要請し、昨年8月24日、ようやく実現するところとなった。今年の8月24日、薬害エイズの被害者だけでなく、スモン、サリドマイド、ヤコブ等多くの薬害被害者が、この日を、「薬害根絶の日」と位置づけ、この碑の前に結集し、国に対し、薬害の根絶と救済を訴えかけた。MERSにはこうした市民運動の理論と実践の中心的存在になってくれることを期待する。
③「薬害根絶のための資料館」の実現に向けて知恵と汗を絞り出して欲しい。
遺族の国に対する要求で、未だ実現していないものが、この薬害資料館の設置である。残念ながら、原告団においても、未だ明確なコンセプトができあがっているとは言い難い。こうした現状の下、MERSには、これまでに収集された薬害エイズに関する資料の整理分析、不十分なところの追加調査等を実施し、その結果を踏まえて、この資料館の明確なコンセプトを提案してもらいたい。
以上、MERSの今後の充実した活動を心から期待するものである。