1500名もの被害者を出した薬害エイズは、官(行政)・業(企業)・学(医学界)の癒着が生んだ構造薬害であることは周知の事実であります。現在、その三者の責任を問う刑事訴訟が係争中です。一方、被害者救済を求めた民事訴訟(1996年和解成立)では、国と製薬企業5社を被告として提訴しましたが、医師については、被告とはできず、過失責任を問われることはありませんでした。しかしながら、今でも、釈然としない想いを抱きながら、非加熱製剤を投与した医師のもとで治療を続けている血友病患者たちが少なくありません。
無念な想いで亡くなっていった者たち、大切な家族を失った者たち、今なお病床で苦しんでいる者たち、彼らの願いは、二度とこのような悲惨な薬害が起こらない社会の実現なのです。そんな社会を実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。それには改めて「薬害エイズは、何故、どのようにして引き起こされたのか?」ということを検証する必要があります。
医療の現場について言えば、非加熱製剤が投与されていた当時、「患者は何を考え、どのように行動していたのか?」、「医療機関・医師は、どのような思いで医療行為を行っていたのか?」など、一つ一つの事例を検証する必要があると思います。この検証作業は、患者・家族・遺族にとってつらい過去を引き出さなければならず、非常に困難を極めるでしょう。しかしながら、この苦難を乗り越えなければ、再び薬害が起こることは必至だと考えます。
今ここで薬害エイズを検証し総括することが、薬害根絶の第一歩と成りうると確信しています。そして、薬害エイズが露呈した様々な社会の矛盾・問題点を明らかにし解決していくことが私たち薬害エイズに関わった者たちの使命であると思います。
薬害エイズに関わった多くの人々の想いを受け、「薬害が二度と起こらない、感染症に対する差別・偏見のない、適切な医療と福祉が享受できる」社会の実現を目指して、私たちは改めて強い決意を胸に『ネットワーク医療と人権』を設立しました。今後、各方面の多くの方々にご協力をお願いすると思いますが、本会の趣旨をご理解のうえ、ご賛同いただけますようよろしくお願い致します。
2000年9月23日
ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友