薬害イレッサ訴訟の経過 -原告側証人・浜六郎氏 証人尋問-
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 清瀬 孝介
薬害イレッサ訴訟の概要
原告側証人 浜六郎氏(報告集会にて)
「薬害イレッサ訴訟」とは、抗がん剤の一種で肺がんの治療薬「イレッサ」により健康被害を受けた被害者(遺族を含む)が、国と製薬会社アストラゼネカを被告として、損害賠償請求を起こした裁判です。本訴訟は、西日本訴訟(大阪地方裁判所)、東日本訴訟(東京地方裁判所)の2地裁で争われています。大阪では2004年7月15日、東京では同年11月25日に提訴され、両地裁ともに2007年7月現在も係争中です。今号では、西日本訴訟の期日、原告側証人・浜六郎氏の証人尋問の模様を報告します。
今回、原告側証人として証言台に立った、浜六郎氏は、NPO法人医薬ビジランスセンター所長として、科学的な医薬品のあり方を追求するための様々な研究活動を行い、薬害の防止に尽力されておられます。今回の証人尋問では、イレッサの医薬品としての有効性、危険性について、氏の専門家としての知識に裏づけされた貴重な証言を伺うことができました。
2007年3月6日 西日本訴訟第15回期日 原告側証人 浜六郎氏 主尋問
イレッサ承認の問題点
非臨床試験(毒性試験)におけるイレッサによる毒性予見の可能性について
と述べ(下図【傍聴時配布資料】参照)、被告アストラゼネカ社が「毒性試験においてイレッサによると考えられる肺の病理所見がなかったので、承認申請概要には記載されない」と主張していることに対しては、
と厳しく糾弾し、
と述べました。
臨床試験における有害事象・副作用について
被告アストラゼネカ社がいまだに有害事象死亡例のデータ提出を拒んでいることに対しては、
と指摘しました。
延命効果について
被告アストラゼネカ社が主張する「東洋人での延命効果」について、証人は、
と述べました。またドセタキセル(注1)との比較試験においても、イレッサの有用性を証明できなかったことを挙げ、
と断言しました。
証言の最後に
浜氏は、
と断罪し、約4時間にも及ぶ長時間の主尋問は終了しました。
(注1)1997年に販売開始されたタキサン系の抗がん剤。商品名タキソテール(サノフィ・アベンシス社)。
2007年5月11日 西日本訴訟第16回期日 原告側証人 浜六郎氏 反対尋問
被告・アストラゼネカ社代理人 反対尋問
「QOL(生活の質)が改善すればイレッサには抗がん剤としての有効性があるのではないか」という指摘に対して、証人は、
と証言しました。
イレッサと肺障害との間には因果関係がないとして、アストラゼネカ社が過去に証人に対して修正を求めた点については、
と述べました。
被告・国 反対尋問
「発生した有害事象のうち、因果関係を否定できないものを全て副作用としてしまうと、何も承認できなくなってしまうのではないか」という指摘に対して、証人は、
と証言しました。
おわりに
今回の証人尋問を通して、私は被告・アストラゼネカ社のこの裁判に臨む態度に非常に違和感を覚えました。
反対尋問の序盤では、「証人の信憑性」と称して、浜氏の医師としての経歴から始まり、抗がん剤治療あるいは治験の有無、薬害オンブスパースン会議での役割など無意味な質問を延々と繰り返し証人を試し、果てには、証人の学生時代の政治思想や活動にまで言及するという、証人を愚弄しているとしか思えないような質問に終始し、何度も傍聴席から失笑を買っていました。しかも、それをわざとやっているかのような印象を与え、証人だけでなく多くの被害者の方々に対して「嫌がらせ」をしているとさえ思ってしまうほどでした。
また、証人が主尋問時に証言したことについて「何か証拠となる文献はあるのか」という質問をしておきながら、証人に「アストラゼネカ社が提出した中に含まれていた文献を基にしたが・・・」と返され、被告は自分たちの持つイレッサに関する重要な文献すら十分に検討していないことが露わになるという一幕もありました。
証拠がないのにもかかわらず「我々が正しい」ということを前提としているスタンスしかり、このような態度は「裁判」という誠実さが求められる、しかもこのようなたくさんの亡くなられた被害者がいる事件の裁判にはおよそ相応しくありません。悩み苦しんでいるがん患者のために、被告側にはもう少し「誠実」にこの裁判に臨んでほしいと思います。
原告側の証人尋問はこれでいったん終了し、この後は被告側の証人尋問が始まります。残念ながらこの訴訟は傍聴席に空席が目立ちます。傍聴席を埋めることは非常に大きな力になります。皆さんもぜひ裁判所の方に足を運んでいただいて、「がん患者の命の重さ」というものに思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。