取材報告
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 清瀬 孝介
イントロダクション
2007年3月23日、薬害肝炎東京訴訟に対する判決が言い渡されました。昨年6月の大阪地裁判決、8月の福岡地裁判決に続く、全国で3件目の判決です。現地にて取材を行ってきましたので報告します。また今号では、薬害肝炎大阪訴訟弁護団の松井俊輔弁護士に寄稿をお願いし、本判決の詳しい内容、意義、今後の課題について解説いただきました。さらに、薬害肝炎大阪訴訟原告の武田せい子氏には、被害の当事者として今回の判決をどう受け止めたのか、率直に語っていただきました。併せてお読みいただき、我が国の肝炎対策について再考していただければ幸いです。
「勝訴」「三度断罪」
判決前集会の様子
入廷する原告・弁護団
判決日当日は雲一つない好天に恵まれ、これは何か素晴らしい判決が出るんじゃないかなどと勝手な想像をしながら東京地方裁判所へ向かいました。午後0時過ぎに到着すると、裁判所前の歩道は、原告、弁護団、支援者、報道関係者などたくさんの人で埋め尽くされており、すでに判決前集会が始まっていました。東京原告、その他全国各地の原告、弁護団の方々などが代わる代わる思いを述べていました。皆さん、来るべき日を迎えたという晴れ晴れしい表情をしていました。午後1時前、原告や弁護団の方々が入廷するのを見届けた後、裁判所敷地内で傍聴券の抽選を待ちました。残念ながら抽選に外れてしまった私は、裁判所前で判決結果を待つことにしました。
午後2時、開廷の時間を迎え、裁判所前一帯は張り詰めた緊張感に支配されます。判決内容が分かり次第、裁判所内から弁護団の方が旗を持って駆け出してくる手筈になっています。「完全勝訴」か「一部勝訴」か、はたまた「不当判決」なのか・・・・・・
午後2時25分ごろ、ついに2人の弁護士の方が裁判所内から駆け出してきました。そして手に持つ旗が開かれる――
「勝訴」「三度断罪」
「クリスマシン」初の企業責任認容
勝訴の旗を掲げる弁護士
判決内容は、東京第一次訴訟原告21名中13名の損害賠償責任を認容し、国と企業の責任を明確に認めるものでした。賠償額については1名あたり1320万~2200万円、総額2億5960万円、13名中6名が被告国と被告企業の両方に勝訴、7名は被告企業のみに勝訴となりました。
私個人の感想としては、本判決は原告側が否定してきたフィブリノゲン製剤の有効性・有用性について「ありき」で判断されたものであるため、その責任が指示・警告義務違反のみにとどまった点、また、責任が生じた時期について、大阪地裁判決、福岡地裁判決に続いての進展が見られなかった点が非常に残念でした。しかし、今回の勝訴により国と企業に対して3度目の断罪が言い渡されたこと、そしてなにより裁判所が、フィブリノゲン製剤の使用による肝炎感染を「薬害である」と断定したことは大いなる成果であると考えてよいと思います。また、過去2地裁の判決で認められることのなかった第IX因子製剤「クリスマシン」の企業責任について、今回初めて認められたことは本判決のいちばんの収穫だと思います。(詳しくは本号、松井俊輔氏の寄稿「薬害肝炎訴訟東京判決の意義と課題」参照)
繰り返される「線引き」
報告集会にて、判決内容を説明する弁護士
判決言渡後には、近隣の会場で開かれた報告集会にも出席させていただきました。様々な方が今回の判決についてのお話をされていましたが、その中で原告番号12番の方が「1番、2番と原告番号の順に判決が読み上げられている間は冷静だったが、途中で番号がとんだ瞬間、頭が真っ白になった。私たちはみんな同じような経緯でC型肝炎に感染し、同じような苦しみを味わわされている。それなのにどうして『この人は助けるけど、この人はダメ』などと線が引けるのか。国も企業も医者も責任のなすりつけあいばかりで、苦しんでいる人々に目を向けない。『いいかげんにしろ!』と言いたい」と話していたのが印象的でした。
差し込んだ一筋の光
広がる支援の輪
今後、名古屋地裁では7月31日に判決言渡が予定されており、仙台地裁でも今年中に判決が下される予定になっています。私個人の推測ではありますが、この両地裁においても被告国、被告企業に対して断罪が言い渡されるだろうと思います。残念ながら厚生労働省は、今回の東京地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。しかし一方で、厚生労働省前で座り込みを行っていた原告の方々と下村博文官房副長官が面会し、政府主導で肝炎対策に本格的に動き出す方針を示すなど、政治解決に向けた動きも出てきています。これをぜひ良い方向に進めていただいて、全国350万人ともいわれる肝炎患者の方々全員が一日でも早く救済されることを願います。