子供の頃、私は「本を読む」ということが非常に苦手で、夏休みの宿題など、必ず最後に残るのは読書感想文でした。いつしか国語・古文・詩歌などや、はたまた芸術的なことからも遠ざかっていました。そして今になって、自分をうまく表現できないことを痛感し、これまでのことを反省しています。
そんな私ですが、最近テレビで紹介される街頭インタビューとか、普段のコミュニケーションで、ついつい気になることがあります。話し手の感情表現として「やばい」 、「かわいい」 、「うざい」等々、その一言でしか物事や他人を表現できないことを、自己表現ベタな私ですら寂しく思うのです。
相手の考え方・感じ方はじっくり聞いてみないとわからないし、心の中は覗けないのですから、人と人が完璧に分かり合うことなど不可能です。また、ちょっとした誤解や勘違いで人間関係が崩れることもよくあります。たとえ分かり合えなくても、脆く危うい関係性の中で、少しでも人と人がつながるためにはどうしたら良いのでしょうか。
本号は、昨年11月3日に開催したシンポジウム、「患者とは何者か?~患者-医療者間の『せつなさ』と『幸福な関係』~」の開催報告特集号です。結局、患者と医療者の関係も「人と人のつながり」。自分なりに考えてみると、相手の多様な価値観=ものさしを認めること、自分のものさしを横に置いて視点を変えてみる、相手のことを聴く・自分の考えをきちんと伝える、そういった態度・コミュニケーションが必要なのだと思います。医療のユーザになりうる自分も、忘れずにそんな態度や実践を心がけたいと思います。
追記
2008年1月、田口ランディ氏の御尊父様が他界されました。シンポジウムの基調講演で、田口氏は御尊父様を巡る医療の矛盾点を指摘し、患者と医療者との関係性向上を願っていました。MERSスタッフ一同、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
2008年3月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友