巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言

 ニュースレターの発行が滞り、会員や関係者の皆様には非常に申し訳なく感じています。もはや言い訳にすぎませんが、新たな感染症に振り回され続け、事業の遂行を見直さざるを得ない1年間でした。

 私たちは、感染症に対する差別・偏見の解消を謳って活動してきましたが、新たなコロナウイルスは非情なまでに無力感を突きつけました。感染者や周りの親しい人たちに対する排除・嫌がらせ・中傷の数々は、エイズパニックを彷彿させました。未知なるものへの反応は、悲しいかな人間の根源的な反応でダークサイドを表出させたのかもしれ
ません。個人的には、ウイルスや感染症そのものへの怖さよりも、人々や社会の混乱・動揺の方が怖いと思いました。

 このような人々や社会の反応は、奇くしくも 50 年ほど前のアニメ「ムーミン」の『赤い月の呪い』で描かれた、ムーミン谷の住人の反応と酷似しています。谷には、月食の夜になるとコウモリが吸血鬼となり、噛まれると吸血鬼になってしまうという言い伝えがありました。月食が明けて怪我をしたコウモリの子供を保護した “よそ者” スナフキンを、言い伝え(=迷信)を畏れる住人たちは谷から追放もしくは逮捕しようとしました。

 「ぼくはコウモリの命の方が(言い伝えよりも)大切なんだ。」と言って、スナフキンは谷を去ろうとします。ムーミンは必死にスナフキンを追いかけ、コウモリに自分の指を噛ませ、言い伝えが間違いであると証明しました。ムーミンのスナフキンに対する友情と勇気ある行動によってスナフキンを留まらせることができました。

 子供向けの番組と思いきや、奥が深く考えさせられる内容で、コロナ禍の下、私たちが学ぶべきことが多いと思い知らされました。これまで HIV 感染症やインフルエンザなど、ウイルス自体を制圧できたことはありません。治療薬やワクチンなどで如何にコントロールしていくか(共存していくか)なのだと思います。新型コロナウイルスともう
まく共存できる日を待ち望みます。

 さて、昨年 3/29 の MERS イベントも延期となりましたが、先日 1/31 にウェビナーにてようやく開催することができました。ご参加いただいた方には感謝申し上げます。本号では開催報告として掲載しております。ご参加いただけなかった方も是非ご一読いただけたら幸いです。


<参考>
・瀬戸一夫、2002、『ムーミンの哲学』第 VIII 章 運命と行為、勁草書房
・TV アニメシリーズ「新ムーミン」、1972、虫プロダクション制作、第 38 話『赤い月の呪い』
* YouTube TMで視聴可能、https://www.youtube.com/watch?v=gLL_ouMSJYM

2021年3月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友