巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言

 先日、三陸鉄道リアス線の旅を満喫することができた。始発は、例の朝ドラの舞台であった久慈駅。今もなおドラマロケの名残をとどめていた。この小旅行は機会に恵まれたこともあるが、自分にとっては大きな決断でもあった。今年3月に宮古-釜石間が三陸鉄道として復旧して全線開通したこと、また懐かしい思い出のある浜の海鮮郷土料理のお店がTV番組で取り上げられたことが、私の迷っていた気持ちを後押しした。

 思い出の浜とは、小学生時分の家族旅行で海水浴に訪れた場所で、その浜は地形が為す技なのか、引き波のない(消えるように見える)片寄波の名所「浪板海岸」である。私は三陸鉄道「浪板海岸駅」で途中下車し、海鮮料理ランチを目論んだ。いざ途中下車してみると、かつて海水浴を楽しんだ砂浜は、震災被害によって跡形もなく、代わりに護岸工事とかさ上げされた防波堤によって無機質なコンクリートの浜に変わっていた。あまりの変貌ぶりに懐かしさよりも喪失感に襲われた。

 海鮮郷土料理の店は海岸から高い位置にあり、大きな窓からは、浪板海岸と太平洋の水平線を見渡すことができた。お昼時はひっきりなしにお客が訪れて満席となり、店を切り盛りするのは威勢のいい(クセの強い)「お母ちゃん」で、私の沈んだ気持ちを忘れさせてくれた。加えて供される海産物の数々は、本当に新鮮で肉厚の絶品、しかも衝撃的な安さで、普段、食べている海鮮との格差や街の物価の高さを痛感した。今回の旅では目的地に早く着くことよりも、「時間」を忘れることに価値を求めた。あくせくした日常から離れ、各駅停車の車窓から見える景色を楽しみ、雄大な自然に触れて、少しばかり心が豊かになった。

 余談になるが、もう一つ衝撃を受けたことがあった。それは、自分よりも10〜20歳くらい年上の人々が電車をほぼ一杯に埋めていたことである。おそらく彼らは時間やお金に余裕がある方々なのだろう。そのしっかりとした足腰と“エネルギッシュな雰囲気”に圧倒されながら、彼らの関心を引く企画や観光イベントが被災地の復興を支え、ひいては日本経済を牽引していくのだろうと、ふと感じたのである。

2019年7月
特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権
理事長 若生治友