WFH世界大会2014 参加報告-1 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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WFH世界大会2014 参加報告-1

血友病をめぐる世界規模の動向を肌で感じて」

佐野 竜介
(一般社団法人 ヘモフィリア友の会全国ネットワーク 理事長)

WFHとは

 WFH(World Federation of Hemophilia ; 世界血友病連盟)は、血友病の国際的な患者団体です。2012年には設立50周年を迎えました。その加盟国は世界128カ国に上っています。
 そのミッションは“Treatment for all(「全ての患者に治療を」)” です。
 WFHは2年に一度、世界大会を開催します。今年がその開催年で、今回はオーストラリア、ビクトリア州の州都メルボルンで5月11日から15日にかけて開催されました。
 今回、このWFH世界大会に初めて参加してきました。

WFH世界大会って何?

 WFH世界大会は、患者・家族、医療者、行政関係者、製剤メーカーなど、血友病と類縁疾患の関係者が一堂に介して行われるイベントです。医療や看護をはじめ、心理・社会・経済的問題もテーマとするセッションが、連日何本も行われ、数百にわたるポスター発表が行われます。展示会場では製剤メーカーや患者団体がブースを出展します。また世界大会の前後には、加盟国の団体への研修プログラムやWFH総会が開かれます。
 こうしたイベントを患者団体が大規模かつ継続的に行っているというのが、まず一つの特色と思います。今回のメルボルン大会の参加者は4,300人とのことだそうです。

メルボルン大会

 

 今回の大会は、メルボルンの市街地の南を流れるヤラ川のほとりにある、メルボルン・コンベンション・エキジビジョンセンターで開かれました。会場は広く、足の不自由な人には正直つらいほどです。そのため、会場の入口から展示会場・メインホール間でゴルフカートの運行サービスまでありました。運転していたのは全豪血友病財団の元会長さんだそうです。

 今回、日本の患者会からの参加者は、私のほか、森戸(むさしの会、MERS)、大西(〃)、松本(三重友の会)、仲島(大分友の会)、Mさん(万葉友の会)の各氏。Mさんはお母さんと息子さんの親子で、大西さんはご夫婦で参加されました。そして通訳として、以前から私たちに多大な協力をしてくださっている小林まさみさんが同行してくれました。

 11日夕方のオープニングセレモニーから、本格的に大会が始まりました。オーストラリア先住民の音楽や舞踊などが披露され、WFH役員や来賓たちの挨拶が続きます。私たちが開催した「全国ヘモフィリアフォーラム」に出席されたアリソン・ストリート氏は、大会の名誉実行委員長として壇上に立たれました。
 製剤メーカーやカナダのプロジェクト・リカバリーのような途上国への製剤寄付に対しても、賛辞が贈られていました。特にバイオジェン・アイデック社は1億単位の製剤寄付を申し出ているとのことでした。
 WFH設立からの写真がスクリーンに映し出される中、医師、患者、家族など、様々な人たちがWFHの事業について語っていました。その中には製剤を入手できたナイジェリアの母親、血友病の双子姉妹の若いフランス女性(参加されたのは軽症の方)、WFH創設者のシュナーベルさんのお孫さんなどもいました。かつての1976年に行なわれた京都世界大会の様子も写真で紹介されました。

セッション

 会期中、WFHの基調セッションが、午前10:45からお昼までホールで行われます。これはほとんどが医学的テーマです。この前後に医学、看護学、実験科学、筋骨格(整形外科)、歯学、心理学、学際領域と7領域のセッションが同時多発的に夕方まで開催されます。これが12日から15日まで続きます。これとは別にメーカー主催のサテライト・シンポジウムも連日行われます。
 患者として一番取っつきやすいのが学際領域のセッションなので、3つほど参加してみました。どのセッションも3~4人の話題提供者が発表を行い、それから質疑という形で進みます。また、領域ごとに会場が固定されているようです。

【Future of Hemophilia Care ? Understanding Global Demand for Treatment Products, Patient Expectations and Access Challenges】
 製剤の進歩や需要などを見据え、患者の声や治療結果などを今後の治療にいかに反映させるかといったことが、話されていました。

【Youth Engagement in Action:Sharing of Best Practices and Experiences】
 若い人たちをどう患者会活動につなげるか、というテーマ。残念ながら他の予定が入り、ほんの最初しか聴けませんでした。

【Education and employment issues living with a bleeding disorder】
 子どもの発達段階ごとにどのように患者教育を行うか、就職をどう考えるかというテーマ。患者さんに向く・向かない仕事のイメージ調査とか、所得の調査、面接では結局一般的なコミュニケーション力が大事だ、といった話も出ていました。

 こうしたセッションは全て英語で行われます。各国の発表者も「私は英語が不得手ですが」と前置きしつつ、みな英語です。同時通訳も入りますが、フランス語とスペイン語です。
 セッション会場に入場するとき、IDカードを読み取られます。後で「あなたの参加したセッションはこれとこれだったが、そのセッションのレビューを返すと、抽選でiPadがもらえるよ」というメールが来ます。

展示会場

 世界大会でも最も華やかなのが展示会場です。企業やWFH、各国の患者会などのブースがずらりと並びます。企業のブースではそれぞれのイメージ展示、製品の紹介、セミナーなどが行われ、軽食や飲み物が振る舞われます。中でもノボノルディスク社はノボエイト発売もあってか、かなりのスペースを占めていました。ノボ社は会場の入口すぐの橋やトラム(路面電車)の停留所にも広告を出していて、その量は群を抜いていました。

 会場中央にはWFHのブース(リソースセンター)があり、出版物が自由にもらえます。WFHの出版物には、英、仏、スペイン、ロシア、アラビア、中国語版がありました。大きな世界地図があり、自分がどこから来たか、その地図にピンを刺すという企画もありました。

 オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、マレーシア、パキスタン、イランの患者団体がブースを出しています。イランのブースで“Grandmother’ s Gene”(おばあちゃんの遺伝子)というお話の絵本を配っていて、日本語に訳してもいいよということでした。

ポスター発表

 ポスター発表のスペースが展示会場の後ろにありました。テーマによって発表日とポスターの掲示場所が指定されます。12日(月)から14日(水)まで、3日にわたり日替わりで発表されます。1日で掲示されるポスターは200枚超なので、実に700枚くらいのポスター発表が3日間で行われることになります。
 全国ネットワークの役員から、「世界大会に行くんだったらポスター発表くらいしなさい」といわれ、今回“The History of Hemophilia Community in Japan”という題名でポスターを出しました。
 ポスターの提出はインターネットを使った実に便利なものでした。発表内容が事前審査を通ると、締め切りまでにポスターを「ポスターセッション・オンライン」(http://www.postersessiononline.eu/)というサイトにデータを送信します。すると、プリントされた大判ポスターが大会会場で当日受け取れるのです。あとは指定場所に自分で貼るだけ。「ポスターセッション・オンライン」では、提出されたポスターがWeb上でも閲覧できます。
 会場でそれぞれの発表を見ながら感じたのは、「私たちの発表内容はかなり珍しい」ということです。患者会の特定活動の実績報告などは実にたくさんあるのですが、患者会の歴史なんて内容は私たちだけです。エントリーするときも、どの領域に出したらよいか非常に迷って、結局“Hemophilia Programs and Organization”というのがいちばん近そうだったので、この領域で提出しています。私たちの感覚にどこかズレがあるのではないかと、少し心配になりました。

『コングレス・デイリー』

 世界大会の会場では『コングレス・デイリー』という大変充実した内容の新聞が配られます。前日のプログラムや参加者の活動に関する記事がいろいろ載っています。同時多発的にセッションなどが開催されていて、全てを見聞きすることなど絶対不可能なので、こうした新聞は非常に参考になります。会場で聞いて理解するのは大変でも、この新聞の記事で大要を理解することもできます。メールでの配信もあり、至れり尽くせりです。

ソーシャルプログラム

 「お楽しみ」のイベントです。みんなで飲んで食べて楽しもうというわけで、オープニングセレモニーの後にレセプションが行なわれ、13日火曜日には、「テイスト・オブ・オーストラリア」というパーティーが、最終日には「さよならパーティー」がありました。
 このほか、会場には入らない同伴者向けの自然公園ツアーがありました。13日のパーティーにはカンガルーやらカモメやらの着ぐるみが登場したり、ファイヤー・ダンスが披露されたりしていました。最終日のディナーは広い宴会場に1000席以上が設けられ、ロックバンドが出てダンスパーティーになったりして、実に楽しいものでした。私もおそらく20年ぶりに踊りました。

 最初のレセプションの時に、スリランカ出身でオーストラリアで勉強しているという血友病の青年と、私たちは知りあいになりました。それから会場でもよく会い、M君や大西さんなどはとても親しく話をしていました。

企業やWFHとのミーティング

 世界大会はミーティングの場でもありました。今回、ナショナルコーナーストーンヘルスケアサービス(NCHS)、バイオジェン・アイデック、そしてWFHとのミーティングを行う機会がありました。
 NCHSは全国フォーラムにも寄付をしているアメリカの薬局です。製剤をメーカーから直接仕入れ、宅配するサービスをしており、これを日本でも始めたいと考え、メーカーとの交渉や協力企業探しに入っているようです。患者さん向けの案内を見せられ、日本での障壁はないかと相談されました。
 バイオジェン・アイデックはアメリカの製薬会社です。長時間作用型製剤の開発で先行しており、第Ⅸ因子製剤はすでにアメリカでの販売承認が出ており、日本でも9月に薬価収載されました。日本の血友病患者の状況などについて聞かれました。この会社の副社長(このミーティングの直前に退任された)のグレン・ピアスさんという方も同席されました。血友病患者で全米血友病財団の会長もされていたといいます。肝移植をされたため、「元」血友病患者なのだそうです。
 WFHとは、ヴェイル会長とレオンマネージャーとのミーティングを行いました。全国ネットワークの発足経緯や現況を説明し、WFHへの要望などを伝えました。

WFH総会

 世界大会終了後の翌日16日は、WFHの総会です。ミーティングのときにレオンマネージャーからOKが出たので、傍聴させていただくことにしました。
 総会は大会と同じ会場で朝8時半から夕方4時まで行われます。大変な長丁場です。世界各国のNMO(National Member Organzation、国ごとの代表患者団体)が議決権一票を行使します。
 少しだけ遅れて会場に入ったのですが、ちょうどその時、新しい加盟国の承認が行われていました。モーリタニア、トーゴ、ザンビアの代表患者団体が加盟することとなりました。
 そのあと事業報告や財務に関する報告があり、定款変更に関する提案が行われました。WFH本部のあるカナダの法律が改正になったことで、定款を変更する必要が出たとのことです。これまで総会は2年に一度、世界大会のたびに行なわれていましたが、今後は世界大会のない年も電子的方法など、何らかのかたちで総会に準じた会合を持たなければならなくなったようです。

 ランチタイムは、総会出席者が昼食会場に集まりましたが、ここでは2020年の世界大会招致活動が行われました。最終候補はマレーシアのクアラルンプールとカナダのモントリオールです。マレーシアとカナダの患者会が垂れ幕を出したり、グッズを配ったりして「うちに投票してくれ」と、それぞれ熱がこもった招致活動でした。
 さて、この大会招致ですが、午後の総会ではそれぞれの国の最終プレゼンテーションが行われます。経済的に開催できるか、政府の支援はあるか、交通や宿泊の便はどうか、会場はどんなところか、周辺観光はといった、かなり実質的なところを両者がアピールし、宣伝用のイメージビデオも流されます。投票の結果、クアラルンプールに決まりました。決まった瞬間、マレーシアの患者会の皆さんが私たちの横で歓声を上げていました。
 総会では役員改選も行われます。かなりの役員が任期満了で入れ替わるようでした。退任者への感謝の辞が会長から述べられ、記念品贈呈のセレモニーがありました。

最後に

 初めての世界大会参加となりましたが、先進国のひとも途上国のひとも、とにかく血友病に関係するひとが、寄ってたかっていろんなことを楽しく考えるという場を目の当たりにし、本当に新鮮な体験をしました。血友病という疾患はこうした世界的スケールで考えられているのです。この感じは行った人でないとわからないと思います。そして、私たちは自然とこの中に組み込まれ、製剤を確保し、日々の治療を続けていることになります。日本としても、こうした団体の中で、それなりの役割を担うことは非常に重要です。
 また、WFHという組織が“Treatment for all”というミッションのもと、強力な「非営利団体としてのビジネス」を世界的に展開していることにも圧倒されました。オープニングセレモニーの会長スピーチでも「ビジネスモデル」「マーケティング」という言葉が出ていました。これも日本では想像できないことです。言語の問題などもありますが、日本にいるとこうした発想を理解すること自体が難しいようにも思います。
 次の世界大会は2016年7月24~28日、米国フロリダ州オーランドで開催されます。多くの学校で夏休み期間になるので時期もよいですし、多くの方が次期大会に参加されることを願っています。全国ネットワークでツアーを組むなど、何らかの便宜が図れたらと考えています。