巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


高校時代、試験勉強をしながら深夜ラジオ番組を聞いていた。その深夜番組が4月からリバイバル(月1回)された。記念すべき第1回は聞き損ねたのであるが、ネットの動画サイトにアップされ一部聞くことができた。

その深夜ラジオのパーソナリティはミュージシャンであり、彼女の歌の数々・内容からすれば、ラジオ番組の彼女は全く正反対のキャラで、別人そのものの語り口である。ラジオの彼女を知ってから、彼女の歌に興味を持った方にすれば、その印象にひっくり返るかもしれない。そういうやり方を嘆いたファンからの手紙に、かつて彼女は自分のエッセイで応えていた。「どちらとも私そのものなのだ」と。私はといえば、今も健在かつ自由な彼女の語り口に懐かしさと安堵感を覚えていた。

かつて子ども向けTV番組中のヒーローは、いわゆる「正義の味方」として敵を倒していた。しかし20年くらい前からだろうか、子ども向け番組の中ですら「正義の味方」は存在せず、主人公が悩みながら目的もなく戦っているドラマが多い。そこには敵も味方もなく、どちらの視点に立ってもそれぞれの主張が正しく、たとえ主人公が勝利しても虚しさが残ることがある。現実世界の閉塞感・生きづらさ・無力感が凝縮されているような気がする。

翻って、日常生活、社会、政治、外交といった色々な場面で、非建設的な議論がなされ、さらには武力行使すら行なわれているニュースを聞く。想像力を働かせて反対の立場とか別な視点に立っても、やはり正しく思えてしまい、折り合いや落としどころを見つけることに困窮する。時には答えが見つからず思考停止に陥ってしまうことも。そんな時、自戒的に思い出すのが前述のミュージシャンの歌の一節である。結局は、自分も含めて、誰も何も正しくないところから踏み出すことなのかもしれない。

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もしもあなたが全て正しくて とても正しくて 周りを見れば
世にある限り全てのものは あなた以外は間違いばかり

つらいだろうね その1日は 嫌いな人しか 出会えない
寒いだろうね その一生は 軽蔑だけしか いだけない

争う人は正しさを説く 正しさゆえの争いを説く
その正しさは気分がいいか 正しさの勝利が気分いいんじゃないのか

正しさと正しさとが 相容れないのはいったい何故なんだ
正しさは道具じゃない

「Nobody Is Right(作詞/ 作曲:中島みゆき)」より抜粋
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2013年5月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友