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特別寄稿2

「化血研問題における『インフォームド・コンセント』」

特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 理事 大西 赤人

(前頁からの続き)

血液製剤の危機管理

 さて、2015年6月に発覚した化血研(一般財団法人化学及血清療法研究所)の様々な不正行為については、事実上リスクは極めて軽微と考えられる安全性の側面に焦点が当たってセンセーショナルに報じられた反面、構造的には「薬害エイズ」と似通った血液製剤の危機管理における問題点の検討は、未だ極めて疎かに見える。今回の化血研問題を考えるには、インフォームド・コンセントの観点こそがポイントである。長年にわたって承認書と異なる製造方法によって多くの血液製剤が作られていたという事実関係の説明は省き、また、当該諸製品の安全性については大きな問題はなかったと思われるという位置づけの論議も省き、それら血友病治療製剤等の特例的、緊急避難的使用にあたってインフォームド・コンセントがいかに図られたのか――あるいは図られなかったのか――に焦点を絞り、経時的に追ってみる。

≪2015年6月5日 厚生労働省記者発表より≫

「代替製品がない、又は代替品に切り替えると患者の生命に影響を及ぼす6製品16品目(別紙1~6)については、医療現場での使用に影響が出ないよう、現在の正確な製造工程、製造記録などにより安全性を確認した上で、一部変更承認等必要な対応がとられる前であっても例外的に出荷を認めることとしています」


⇒ 血友病治療製剤等6製品に関して、ウイルス不活化・除去等の安全性は確認されたが、一部変更申請等は行なわれていない段階での“例外的”出荷を認める内容。既にこの時点で、完全に遵法の製品ではなくとも、「使用」の方針が打ち出されている。ただし、その前提となる「患者の生命に影響を及ぼす」という判断を下す主体は、必ずしも明記されていない。

≪2015年7月21日 平成27年度第2回血液事業部会運営委員会 当日配布資料より≫

<資料1-②-1【バイクロットに関する】代替策案 より>

○ バイクロットは、凝固因子製剤で投与された凝固因子のインヒビター(中和抗体)を保有する血友病患者用の治療のための製剤(バイパス製剤)であるため、類似のバイパス製剤であるノボセブンHI(ノボ ノルディスク ファーマ)、ファイバ(バクスター)の使用を代替とする。
○ しかし、これら類似の2製剤を用いた場合、医療上の重大な支障を来す場合があることから(十分な止血効果が得られない、手術を延期する弊害など)、バイクロットでないと対応できない患者もいる。○ したがって、こうした生命に影響を及ぼす危険性の高い患者の治療に応えるため、緊急避難対応として、出荷待ちとなっているバイクロットの在庫の一部出荷を認めることとする。
○ ただし、バイクロットを使用する場合、その使用基準を明らかにするとともに、安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底を図ることとする。

→ 使用基準については別紙1のとおり、インフォームド・コンセントの内容は別紙2のとおりとする。

<別紙1 緊急出荷されるバイクロットの使用基準(案)より>

「他のバイパス製剤2剤(ノボセブンHI、ファイバ)と比較して、バイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医が判断した場合にのみ、患者及びその家族に対して適切なインフォームド・コンセントを実施し、それに基づいてバイクロットが使用できるよう、緊急にバイクロットの在庫の一部を出荷させ、欠品とならないようにします」

別紙2 バイクロットを使用されている患者の方々へ(案)より>

「ノボセブンHI やファイバを使っても出血が止まらない患者の方々で、バイクロットを使うことで出血が抑えられる患者の方々は、主治医の先生とよくご相談いただき、バイクロットを使用していただいても構いません(そのための在庫については、確保いたします)」


⇒ 他の製剤はウイルス不活化・除去等の安全性の確認を経ている “例外的” 出荷となるが、バイクロットに限っては、その確認を行ない得ていない段階であっても、「緊急避難対応」として、“緊急的” 出荷を認める――出荷差し止めを解除する。なぜなら、出荷されなければ、患者の生命に関わるから――という内容。先の “例外的” 出荷から一歩踏み込み、併せて、初めてインフォームド・コンセントの概念が登場する。そしてそれは、「生命に影響を及ぼす危険性の高い患者の治療に応えるため」とされているはずなのだが、「使用基準(案)」においては、「バイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医の先生方が判断された場合」、「バイクロットを使用されている患者の方々へ(案)」(インフォームド・コンセントの内容案)では「バイクロットを使うことで出血が抑えられる」と揺らいでいる。判断の主体こそ前者においては「主治医」と明示されたものの、「有益性が明らかに上回る」や「出血が抑えられる」は、先の「患者の生命に影響を及ぼす」と比較すると、いささか散漫かつ恣意的な基準となっている。また、代替策案における「インフォームド・コンセントの徹底を図る」という文言は、使用基準(案)では「適切なインフォームド・コンセントを実施し」と緩和されている。ともあれ、ここで厚労省が “緊急的” 出荷に踏み切る拠りどころとしてインフォームド・コンセントを押し出していることは、明らかであろう。

<当日の議事録より>

近藤徹(血液対策課長補佐):
 試験の評価が終わり、例外的出荷が可能になるまでの間は、類似のバイパス製剤であるノボセブンHI とファイバの2製剤を代替として使用することを推奨することになります。
 ただし、バイパス止血療法が必要な患者の方々については、既に使用中かどうかを問わず、以下の項目と照らし合わせて、他の2製剤よりもバイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医の先生方が判断された場合は、患者及びその家族に対して、安全性確認の状況等、適切なインフォームド・コンセントを実施の上、バイクロットを使用できることとします。そのために、欠品にならないよう、緊急に在庫の一部を出荷することという案です。


 しかし、この運営委員会に参考人として出席していた三名の血友病専門医(天野景裕・東京医科大学教授、藤井輝久・広島大学病院准教授、松下正・名古屋大学医学部付属病院教授)の側からは、「インフォームド・コンセントの内容は別紙2のとおりとする」に対して、懐疑的な見解が示された。端的に言えば、インフォームド・コンセントを実施するには、かような文書では使えないという趣旨である。さもありなん、この別紙2には、「【化血研の血液製剤には】使っていないはずのヘパリン(ブタの小腸から得られた、血液をサラサラにする物質)が使われている」(太字:筆者)というような患者を馬鹿にしているとさえ感じられるほどの文言が登場する。

<同前>

松下正:
 恐らく私たちからは別の形で説明をする。文章を使う、使わないに限らず、こういう意見が国から出ていますし、私たちもおおむねこれを了解していますとか、あるいはもうちょっと細かい事情をつけ加えて説明するとかいったような、いわゆる担当医の裁量に属するものに関しては説明してよいということで理解してよろしいですね。

浅沼一成(血液対策課長):
 今の松下先生のお考えで結構です。医療は先生方、医療を供給する先生方と医療を受ける患者様との共同作業で、インフォームド・コンセントをベースに成り立っているものです。もちろん我々は行政の立場でこういった基準だとか説明案を出しますけれども、それを使って、あるいはそれをベースに、具体的に個別の患者さんとどのように向き合っていただいて、インフォームド・コンセントをとっていただくかというのは、それは先生方にお任せをしたいと思います


⇒ 血液製剤は「特定生物由来製品」として、通常の医薬品よりもインフォームド・コンセントが厳しく課せられる。即ち、バイクロットを使用する際、基本的なインフォームド・コンセントは必須なのであり、その前提で委員会は検討しているのだから、今般の状況を踏まえた上で、なお特段のインフォームド・コンセントの実施が必要と解釈し得る(そうでなければ、わざわざ論議するまでもない)。ただし、そのあたりについては、医師の「裁量」も認められているごとく、この場でも厳密に規定されていない。

緊急的な使用を担保するもの

 ここまでの経緯を素直に見るならば、バイクロットの欠乏(あるいは代替品への変更)が患者の生命に影響を及ぼすほど重大か、あるいは、有益性が明らかに上回るという程度かはさておいても、その緊急的な使用にあたっては、定型文書によらず「担当医の裁量」という余地を含みつつも、インフォームド・コンセントの実施――つまり、少なくとも承認書通りの製法では作られておらず、十分な安全性試験をも行なわれていないバイクロットを投与することの患者に対する説明と、それに対する何らかの形による患者の同意の取得と――が必要という趣旨となるのではなかろうか。

 このような審議を踏まえ、厚労省は化血研に対して通達を出す。

≪2015年7月28日 厚生労働省血液対策課長名による化血研への通達より≫

<一般財団法人化学及血清療法研究所のバイクロット(乾燥濃縮人血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子)に係る対応について より>

① 類似のバイパス製剤であるノボセブンHI(ノボ ノルディスク ファーマ株式会社)
又はファイバ(バクスター株式会社)を代替して使用すること
② 但し、これら類似の2製剤を用いた場合、十分な止血効果が得られないなど医療上の重大な支障を来す患者もいることから、こうした患者の治療に応えるため、緊急避難的な対応として、出荷待ちとなっているバイクロットの在庫の一部出荷を認めること
③ なお、バイクロットを使用する場合、(別紙1)のとおりその使用基準に基づいて使用するとともに、(別紙2)を用いて安全性確認の状況等に関する患者からのインフォームド・コンセントの取得の徹底を図ること
 

⇒「十分な止血効果が得られないなど医療上の重大な支障を来す患者」「の治療に応えるため」と表現が微妙に変化している。しかし、「患者からのインフォームド・コンセントの取得の徹底を図ること」という言い回しは、単なる「実施」よりも一層強まっている。

<緊急出荷されるバイクロットの使用基準より>
〇 但し、バイパス止血療法が必要な患者※1の方々について、以下の【項目】に照らし合わせ、他のバイパス製剤2剤(ノボセブンHI、ファイバ)と比較して、バイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医が判断した場合にのみ、患者及びその家族に対して適切なインフォームド・コンセントを実施し、それに基づいてバイクロットが使用できるよう、緊急にバイクロットの在庫の一部を出荷させ、欠品とならないようにします。

<バイクロットを使用されている患者の方々へ より>
○ 現在、バイクロットの在庫がほとんどない状況ですので、ウイルスをどれだけ取り除くことができるかどうかの確認ができるまでの間、患者の方々に出血があった場合は、類似のバイパス製剤であるノボセブンHI(ノボ ノルディスク ファーマ株式会社)もしくはファイバ(バクスター株式会社)を使用していただくよう、主治医の先生方にお願いしているところです。
○ しかし、ノボセブンHIやファイバを使っても出血が止まらない患者の方々で、バイクロットを使うことで出血が抑えられる患者の方々は、主治医の先生とよくご相談いただき、バイクロットを使用していただいても構いません(そのための在庫については、確保いたします)。


⇒ 「使用基準」及び「患者の方々へ」の7月21日付案文と7月28日付確定文とを比較すると、「患者の方々」に「バイクロットの止血効果については国の機関で確認されています」なる一文が加えられた程度の変更のみ。「血液をサラサラ」云々などはそのままである。

 この厚労省通達を受け、翌日、化血研は、自社サイトの「医療関係者の皆さま」において、「『バイクロット配合静注用』に係る対応についてのご案内」を公開する。

≪2015年7月29日「バイクロット配合静注用」に係る対応についてのご案内より≫
「さて、7月28日付の厚生労働省医薬食品局血液対策課長通知(薬食血発0728第5号)により、バイクロットの出荷再開までの間、類似薬でありますノボセブンHI、ファイバの2製剤(下表)を代替として使用されることが推奨されております。
 但し、バイパス止血治療でバイクロットが必要な患者の方々につきましては、(別紙1)記載の『緊急出荷されるバイクロットの使用基準』に基づき、緊急出荷されたバイクロットの使用が可能となっております。また、ご使用される場合には、(別紙2)記載の『バイクロットを使用されている患者の方々へ』に基づき患者の方々からのインフォームド・コンセント取得が必要となっておりますので、ご対応賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます」


 興味深いことには(あるいは、むしろ当たり前のことには)、ここで化血研は、厚労省の通達に基づき、バイクロットの使用基準とインフォームド・コンセントの雛形を示して「インフォームド・コンセント取得が必要となっております」と述べているが、その姿勢は、医療関係者に対して「ご対応賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます」と頼んでいるに過ぎない。同時に、厚労省は、医療関係者に対して何も直接の行動を採ってはいない。結局のところ、あくまでも厚労省は、化血研に対してバイクロットの緊急出荷を認めただけなのである。
 従って、厚労省は“ノボセブンHI またはファイバ(バクスター株式会社)を代替して使用すること”を基本方針とするものの、“医療者がどうしてもバイクロットを使いたいと判断する場合には、化血研は緊急避難的対応として出荷してよろしい”と幅を持たせ、その使用にあたっては“患者からのインフォームド・コンセントの取得の徹底”を――医療者に対してではなく、化血研に対して――要求しているのである。しかも、患者に向けては、これも化血研を通じて「主治医の先生とよくご相談いただき、バイクロットを使用していただいても構いません」と判断をあなた任せにしている。
 そもそも、出血症状を呈しており、通常の凝固因子製剤では効果を発揮しにくいインヒビター患者にとって、主治医が「生命に影響を及ぼす」ないし、少なくとも「有益性が明らかに上回る」と判断してバイクロットの投与を選択している際、「使用していただいても構いません」という悠長な文言が象徴するインフォームド・コンセントにどれほどの意味があるかとなれば、甚だ疑わしい(ただし、各現場においては、まさに医療者の裁量による適切な説明が行なわれ、患者も十分に納得・同意した例もあったであろうけれども)。
 化血研は、この7月29日付対応については、もちろんサイトでの広報のみならず、MRによって医療者個々への説明を行なったようである。しかし、事の詳細も不明で混乱を来していた当時において、十分に情報が浸透したとは考えにくい。上記の対応を詳細に認識していなかった医療者も少なからず存在したと思われるし、ましてや患者への情報提供は全く不十分であった。「インフォームド・コンセントの取得の徹底」に至っては、空文に等しかったとさえ想像される。実証的・数的データはないので断言は避けるが、ある化血研担当者はインフォームド・コンセントに関して“医師に「お願い」をした。実施した例もあるし、実施しなかった例もあると思う。その結果確認は実行していない。厚労省からも確認は求められていない”と述べていたし、血友病専門医からも“改めてのインフォームド・コンセントが、緊急的出荷されたバイクロットを使用する上での「条件」とは受け止めなかった。一般的な血液製剤に関するインフォームド・コンセントについては、当然行なわれたはずである”というような見解を示されていた。

究極的な「患者」の不在

≪2015年12月21日 平成27年度第7回血液事業部会運営委員会≫

<当日議事録より>

田野崎隆二・委員長(国立がん研究センター中央病院):
 先日の第6回運営委員会で、化血研の血液製剤を出荷する場合に、行政のほうでも適正なインフォームド・コンセントを検討するよう意見をいただきましたので、事務局より患者の方々へのお知らせの案について説明をお願いいたします。

近藤徹(血液対策課長補佐):
 資料2では、前回の御指摘を踏まえ、本人や家族の理解と同意を得るインフォームド・コンセントの案を事務局より提案させていただきます。


⇒ 11月18日に開かれた第6回委員会において、バイクロット以外の製品も含めて「患者さんへの情報提供としてのインフォームド・コンセントについて、2通りの説明がされているところも踏まえて、適切なインフォームド・コンセントを文書として何かしらのものを検討」(田野崎)すべしとの意見が強まったため、これに応じる形で厚労省が「【資料2】患者へのインフォームド・コンセントについて」として、バイクロットはじめ五種類の製品それぞれに「〇〇〇〇【各製品名】をご使用になる患者様へ」と題する案文を示した。しかし、内容的には不十分が多く、HIV訴訟原告団などの修正意見を反映し、大幅改定の上、「患者様への情報提供」として2016年1月29日に公開されている。ただし、バイクロットに関してさえ、緊急出荷された分のロットを含めてウイルスに対する安全性は既に確認されたので、言わば一部変更申請を行なわない“例外的”出荷が継続しているという形に過ぎず、他の製品とひとしなみ(注4)である。
 化血研は、この「患者様への情報提供」もまた、自社サイトの「医療関係者の皆さま」において公開しているが、ここにも不思議な箇所が色々と見受けられる。

≪2016年1月29日 化血研の血漿分画製剤ご使用時の患者様への情報提供について より≫
「平成27年度 厚生労働省 血液事業部会 第7回運営委員会において、弊所の血漿分画製剤を使用される患者様へのインフォームド・コンセントについて審議され、出荷差し止めが解除された血漿分画製剤(対象となる血液製剤とロット番号を下部に記載)の処方においては、下記の文書内容で、医療関係者様から患者様への情報提供を各医療機関へお願いすることとなりました。
 つきましては、今後当該製剤をご処方いただく際は、現在各ご施設にて実施されております血漿分画製剤使用におけるインフォームド・コンセントに加え、下記の【製剤共通】および【対象製剤別】の文書を併用して患者様へ情報を提供していただきますようお願い申し上げます。
 この度の弊所の問題により、血漿分画製剤の品質と供給に対する不安を招くこととなり、また、患者様への情報提供の実施をお願いすることに至りましたこと、重ねてお詫び申し上げます」


⇒ インフォームド・コンセントについての審議に基づき、患者への情報提供を医療関係者に「お願い」するとともに、現行の(一般的な)血漿分画製剤使用におけるインフォームド・コンセントに加え、新たに情報を提供するよう求めている。この情報提供は、インフォームド・コンセントの一環なのか?それとも、「同意」を必要としない単なる“お知らせ” なのか?「患者様への情報提供の実施をお願いすること」を詫びている以上、この情報提供の主体(主語)は化血研なのであろう。しかし、同ページに記載された各情報提供文書をダウンロードするリンク先は厚労省サイトの各PDFへの直リンクであり、その標記は「薬事・食品衛生審議会血液事業部会 平成27年度 第7回運営委員会 資料【平成28年1月29日版】」である。これをそのまま受け入れれば、化血研が医療関係者に依頼する情報提供用の文書を厚労省が作成・供与したことになるし、「お願い」に応じて情報提供を実施する医療関係者は、「運営委員会資料」と記された文書「〇〇〇〇をご使用になる患者様へ」を患者に手渡して話をせざるを得ないことにもなる。つまりこれは、事態の責任を専ら負う存在として化血研のみが位置づけられたがために、厚労省→化血研→医療者→患者という然るべき流れが、かえって断ち切られてしまった状況が露呈しているとさえ見える。
 今回の化血研問題は、不正発覚の端緒において、厚労省に“製品自体は、ほぼ間違いなく安全”との確信に近い判断があり、医療者の要望を踏まえて――その延長線上に患者のニーズを踏まえて――例外的・緊急的な製剤使用に踏み切るとの判断があり、以降の対応は、総てその判断に基づいて進んだのだったろう。そして、今のところ、その判断は、幸い正しかったのであろうと考えられる。しかし、危機管理システムの観点から言えば、100%の安全――少なくとも、本来あるべき正規製品と同等の安全――を保証し得ない事態が発生している以上、必然的にリスクを伴う判断を担保するものは、当該製剤を自らの身体に入れ、あらゆる結果を受け容れなければならないエンド・ユーザーたる患者の「同意・納得」しかないのではないか。それこそが、インフォームド・コンセントの真義ではないのか。
 そのように考える時、今般の経緯においては、インフォームド・コンセントという概念=言葉が飛び交ってきたにもかかわらず、事に対処する責任体系の不備・不足と究極的な「患者」の不在を感じざるを得ない。

(2016年3月)

(注4)同じ扱いをすること。同等・同様であること。