巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


昨年末に、大変お世話になった方が亡くなられた。

その人は、以前、ここでも書いたことのある、10年以上通った呑み屋のマスターで、その所作・言動は、「ヨーダ*」にも似た、仙人みたいな人だった。昨年5月末に30数年営業されていた店を、諸事情により畳んだこともショックだったのだが、年末の訃報は、自分にとってかなりのダメージになったことは否めない。

マスターは日本酒の飲み方ひとつをとっても、決して常識や固定概念に囚われない、多様な方法を認める人だった。人によっては「掟破り」の飲み方、すなわち冷酒を燗につけたり、冷蔵庫に入れることが当たり前の酒を常温で放ったらかしにしたりなど、マスターは酒の「化け方」、「多様性」を楽しませていた。

長年の客商売や人生の経験からか、マスターの考え方や物事への対処の仕方などは、私にとって、「目からウロコ」的な、カウンセリングともいえる役割を果たしていた。そして自分の迷い・悩みを軽くしてくれた。そういうことが幾度もあり、日々の生活や仕事の糧となり、活かされてきた。そんな居心地のいい場所を提供してくれたことに感謝の念は尽きない。

もしかしたら、今もどこかで、のらりくらりと酒盃を傾け、ニコニコしながらタバコの煙を燻らしているかもしれない。今後もさまざまなことに狼狽え、途方にくれることもあると思う。そんな時は、ひとつの価値観に囚われることなく、マスターならどんな風に受け応えするか思い出したいと思う。

 

*ヨーダ : 映画「スターウォーズ」シリーズに登場するジェダイ・マスター

 

2017年2月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友