巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


昨年のMERSシンポジウム「患者とは何者か?」とちょうど同じ頃、私は知りあいから個人的に相談を受けていました。「仕事に対する自分の役割は何か」と悩んでいたその人は、あまり意識しないままに今のポジションにたどり着いてしまったのか、改めて自分を見つめ直したらしいのです。浅はかにも私は「やりたいことは何なのか」とか、「視点を変えてみたら」などと言葉をかけていましたが、今思えばそれは私自身に向けられた言葉でもありました。そして、はたと考えて込んでしまったのです。「自分とは何者か?」と。

それ以来、考え込む日々を過ごしながら、何気なく見つけた一節が頭から離れません。

人は、それぞれ与えられた条件を選べない中、それをどう引き受けて、
『生きるかたち』を自分なりにどう作っていくのか、それが人間の生き方

そもそも「生き方」というものは自分一人では決められないもの。つまり、この国や社会に生まれたこと、また病や障害とか、家族とか、セクシュアリティとか、自分の意志ではどうしようもない様々なものから影響を受けつつ生きていくしかないのだと。むしろ、そこから「生きる形」をどのように作っていくかが大切なのだと解釈しました。

これまで「こんな生き方がしたい」と漠然と抱いていた私ですが、今はこの「生きるかたち」をどんな形にしようとか、それは水のように流れたり・しみ込んだりであっても良いとか、そんな風に考えだしたら少しワクワクしてきました。たぶん「自分とは何者か」のはっきりした答え=「かたち」は見つからないかもしれません。けれど、自分の「かたち」を考え・作り続けることが必要なのだと思い始めています。自分のスタイルを一生涯探し続けるアーティストのように。

ちなみに、件の悩める人は、新たなハッピーをつかみながら一歩を踏み出しました。その人の「かたち」が、これからどんなものになっていくのか、それも楽しみの一つです。

 

2008年7月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友