「薬害肝炎 名古屋&仙台判決 詳報
~明暗分かれた最後の2地裁判決~」
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 清瀬 孝介
薬害肝炎訴訟の現状
出産や手術時に、C型肝炎ウィルスが混入した血液製剤(フィブリノゲン製剤、血液凝固第IX因子製剤『クリスマシン』『PPSB-ニチヤク』)を投与され感染した患者らが、このような危険な血液製剤を製造・販売した製薬企業(旧ミドリ十字を継承した田辺三菱製薬、日本製薬)と、血液製剤の製造を承認した国の責任を追及するため、全国5地裁に提訴した薬害肝炎訴訟。現在も東京、大阪、福岡、名古屋、仙台において激しい闘いが繰り広げられ続けています。
ここまで、全国に先駆けて、2006年6月21日に大阪地裁で、2006年8月30日には福岡地裁で、そして2007年3月23日には東京地裁で判決が言い渡されました。いずれの判決も、責任時期等は違えど、国と製薬企業の責任を明確に認めるものでした。直近の東京地裁判決は、大阪地裁判決、福岡地裁判決において認められなかった第IX因子製剤の企業責任を初めて認め、さらに裁判所がこのフィブリノゲン製剤の使用による肝炎感染を「薬害である」と断定し、国と製薬企業を断罪するものでした。
そして、残された最後の2地裁判決がこの度言い渡されました。その詳しい内容を報告します。
2007年7月31日 薬害肝炎訴訟 名古屋地裁判決
2007年7月31日午後2時すぎ、名古屋地方裁判所において、3枚の旗が掲げられました。
「勝訴」
「国・三菱ウェルファーマ(注1) 四度断罪」
「第9因子 国にも責任」
薬害肝炎訴訟の名古屋判決は、原告9名中8名の損害賠償請求を認容し、国と製薬企業に総額1億3200万円の賠償を命じるものでした。賠償額は、慢性肝炎に至らず症状のないHCV感染者3名が1人当たり880万円、発症者(慢性肝炎~肝硬変~肝ガン)5名が1人当たり1540万円~4400万円、「製剤投与と感染の因果関係が不十分」として請求を棄却された1名を除き、8名全員が国、製薬企業の両方に勝訴となりました。
本判決は、これまでの地裁判決では認められることのなかった第IX因子製剤についても、国の賠償責任を初めて認めました。さらに、これまでは国や製薬会社が危険性を認識した時期などで賠償責任の有無を判断していましたが、本判決は投与された時期を問題にせず、製剤が承認された1976年以降の投与による感染が明らかな患者全員に救済範囲を大幅に拡大しました。
裁判所は、製剤の有効性・有用性はあったと認定したものの、「国と製薬会社は、適応外の患者に止血目的で安易に使用されるのを防止する義務があった」と指摘し、製薬企業については、「『感染の危険を排除できないものであることを前提として、適応のある患者に限り、治療上不可欠の場合にのみ使用すべきである』といった説明を製品の添付文書に記載しなかった」、国については、「製品の添付文書の記載が不十分だったにもかかわらず、製薬企業に明確に記載させる措置をとらず、製造を承認した」とし、それぞれに過失(指示・警告義務違反)があると判断しました。
この、原告側の実質的に全面勝訴ともいえる画期的な判決により、被告である国、製薬企業の責任が4度認められ、薬害肝炎問題の全面解決に向けて大きく前進すると思われました。しかし・・・
(注1)三菱ウェルファーマ社は、10月1日付けで田辺製薬と合併し、現在は「田辺三菱製薬」となっています。
2007年9月7日 薬害肝炎訴訟 仙台地裁判決
「不当判決」
2007年9月7日午前10時すぎ、仙台地方裁判所において掲げられた旗に書かれた言葉はよもや信じられないものでした。
一審段階での最後の判決となる薬害肝炎訴訟の仙台判決は、国の賠償責任は認めず、原告6人中1人に限り損害賠償請求を認容し、製薬企業に対して1100万円の賠償を命じるのみの、実質的に原告側敗訴ともいえる極めて厳しいものとなりました。
国の過失が否定されたのは本判決が初めてで、製薬企業の責任についても、認容されたのはフィブリノゲン製剤についてのみ、その救済範囲の時期も先行する4地裁の判決よりも著しく狭く限定されました。
裁判所は、製剤の有効性・有用性を肯定し、さらに「当時は研究途上で危険性の知見が確立されていなかった」と判断し、国については「被害拡大防止のために、行政指導などの権限を行使しなかったことは裁量の範囲内である」と免責しました。製薬会社については、加熱フィブリノゲン製剤の販売を開始した1987年4月22日から、感染の危険性の注意喚起文書を配布し終えた1988年2月末ごろの間に限り、「危険性を排除できないとの副作用情報を提供する義務を怠った」と過失(指示・警告義務違反)を認めました。第IX因子製剤については、「感染リスクは否定できないが、予後が重篤との知見は確立されていなかった」として、国、製薬会社ともに免責されました。
その後の動き
2007年11月7日 大阪高裁にて「和解勧告」
まさかの不当判決に終わった仙台地裁判決の後、薬害肝炎訴訟全国弁護団ならびに原告団は、すぐさま本判決の杜撰さを指摘し、国の加害責任は揺るがされるものではない旨の声明を発表しました。各メディアもこの判決の異質さを指摘し、「国は責任を認め、一刻も早く被害者の救済に乗り出すべき」との論調で一致しました。そして10月中ごろには、田辺三菱製薬がフィブリノゲン製剤投与患者のうち、418名の住所と氏名を把握し、また厚生労働省も田辺三菱製薬から2002年にその旨の報告を受けていたにもかかわらず、何の対策もとっていなかったことが判明。この問題は連日大きく報道され、「厚生労働省の隠ぺい体質」「繰り返される薬害」として広く国民に知れ渡り、大きな社会問題となっています。その影響もあってか、11月7日、大阪高裁にて和解勧告が出され、全面解決に向け大きな一歩が踏み出されました。また肝炎対策においても、民主党と与党PTがそれぞれ、B型・C型肝炎患者のインターフェロン治療に公費助成を行う内容の肝炎対策法案をまとめるなど、ここに来て大きな動きが相次いでいます。
本記事が掲載される頃には、訴訟や肝炎対策においてさらなる大きな動きが予想されます。いよいよヤマ場を迎える薬害肝炎訴訟、どのような形で和解が成立するのか、そして肝炎対策の行方はどうなるのか。我々もしっかり関心を持って、今後とも注視していく必要がありそうです。
2007年11月22日 薬害肝炎緊急集会「切りすては許しません」チラシ
上記集会にて、遺影を手に全面解決を訴える、亡くなった東京原告13番の妹、泉祐子氏
追記:第9回薬害根絶フォーラム取材報告
第9回薬害根絶フォーラムの様子
2007年10月28日、大阪YMCA国際文化センターYMCAホールにて、全国薬害被害者団体連絡協議会(以下、薬被連)主催の第9回薬害根絶フォーラムが行われました。今年は「社団法人 大阪府薬剤師会」の共催を得て、500名近い参加者とともに盛大に行われました。
第1部では、例年と同じように、薬被連を構成する各団体による薬害被害の実態報告がありました。今年は特に薬害肝炎について詳しく報告されました。第2部では、タミフルや薬害イレッサ事件で浮き彫りになった問題について検討されました。第3部では、8月24日に行われた薬害根絶デーの活動報告(文部科学省交渉報告、厚生労働省交渉報告)が行われた後、『徹底討論医薬品の規制改革 ~なぜ「安全第一」ではないのか?~』と題して、会場の意見も交え白熱した議論が行われました。
被害実態について話す薬害肝炎大阪訴訟原告 桑田智子氏