巻頭言 | ネットワーク医療と人権 (MARS)

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巻頭言


かつて父親から薦められ、ロバート・ラドラムのスパイ小説「(原題)Bourne Identity」を読んだ。いくつか過去に映像化されて結構気に入っている作品でもある。この小説は、記憶を失った主人公が「自分は何者なのか」をたどる物語ではあるのだが…。

辞書によれば、Identityは「同一であること、同一性、正体、身元、独自性、本性、…(研究社、新英和中辞典 第6版より)」とある。普段何気なく「自分のアイデンティティは、…」と聞くことがあるが、深く考えると分からなくなる。そもそも「自分は何者なのか、なぜ自分は存在するのか」の問いに答えはないと思うからである。

親の言によれば、私は生まれて間もない頃に血友「病」と診断されたそうだが、治療製剤や社会保険制度のおかげで、これまでを「生きられて(生かされて)」きたと思う。いわば周りの環境からの影響を受けながら、今の自分になったといえる。「アイデンティティ」というものは、自らが作るものではなく他人や世間との関係から自然と出来上がってくるものなのかもしれない。

そんな風に考えていくと、他人から何かを言われて「アイデンティティを傷つけられた」と思うのではなく、自分というものがどうやって今に至っているのかを俯瞰しながら、自覚しながら振る舞えるようになりたいと思う。そして私自身もまた、他者に対して意味のある影響を及ぼせたらと思う。

 

2009年12月
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権
理事長 若生 治友